【ヘルスケア】京都の山奥で瞑想 喋らず、読み書きせずの10日間 何か変わる?いやいや10日で変わりません

【ヘルスケア】京都の山奥で瞑想 喋らず、読み書きせずの10日間 何か変わる?いやいや10日で変わりません

起きて、洗う、排泄、食べる、寝る

VIPASANA瞑想は2500年前から現代まで、途切れることなく、指導者から指導者へ受け継がれている瞑想方法。

この瞑想は今起きている事、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること。

起きる、食べる、洗う、排泄、寝る、それ以外の時間は瞑想する事となる。

瞑想施設は世界中にあり、日本だと千葉と京都の2ヶ所。

施設の維持はドネーション(寄附)で成り立っている。

自分の時はインターネットの予約ページを見ると数ヶ月先まで予約待ち。

日程は12日間。

11日目の午前に瞑想は終了して翌朝コースの終了。

人と喋らず、読み書きもできない10日間。

贅沢な話に聞こえるかもしれないが、現代に生きていて暇ほど辛いものはないことを実感する。

10日間は自分との戦い。

持病、精神疾患がある場合は事前に相談しといた方がよいと書いてある。

私は過去(10年以上前)に少しメンタルを病んで3ヶ月間、2週に一回、精神科を受診して薬をもらった経験があったので、申し込みの際、記入欄があるので記入。申し込み後、確認のメールあり。担当の方とのやりとりで、過去10年以上前の事、申し込みページを見て思い出して、その後10年の間、何もないと伝えました(余計な心配をかけてしまって申し訳ないです)

現在進行形の方は事前にお医者さんに相談されてから申し込みをお勧めする。

なぜこんな瞑想やろうと思ったのか?

この瞑想について知ったのは、10年近く前、旅行で訪れたインドのブッダガヤの安宿のドミトリー。隣のベッドは歳が同じスウェーデン人の学生で彼は翌日宿を出る準備をしていた。

夜寝る前にテラスでタバコを吸ってたら、スウェーデン人の学生が来て、明日から10日間の瞑想に行くことが決まったからタバコをもらってくれないかお願いされたことだった。

話を聞くと瞑想期間中は10日間、喋らず、読み書きもしないのだと、最初は自分の英語の聞き間違いなのかと思っていたが、その後も旅の道中で同じように瞑想に参加する旅行者に会った。

聞いた当初は怪しそうだなと思ってたけど、調べた結果、この瞑想は宗教と関係ない世界中に瞑想施設が存在する歴史ある瞑想プログラムだと知る。興味はあったものの、頭の片隅に記憶が微かに残ったまま10年の月日が流れる。ある日マインドフルネス瞑想法がブームとなってる事をテレビで知る。こぞってメディアが取り上げてて、この瞑想の事を思い出す。時間もちょうどあってタイミングよく申し込む。

瞑想施設がある京都の山奥へ

京都駅から電車を乗り換えて40分で園部駅で下車。

大きなバックパックを背負った旅人から、小ぎれいなスーツケースを持った会社員風な女性、頭を丸めて袈裟を来ているお坊さん、大学生、外国人が同じ電車から降りてくる、そして向かう先は同じバス停。

そこから路線バスで4〜50分は乗ってたであろうか。桧山バス停に到着する。

バスを降りて、バス停でしばらく施設から来るワゴンを待つ。横にいたガタイのいい青年と何となく会話する。バス停にいたのは15人程だろうか、それとなく、近くにいた人とこれからの出来事に不安と期待を膨らませながら会話をしている。

しばらく喋ってたらワゴンが来る。もう日も暮れかけた頃。

ワゴンに乗って山道を20分走っただろうか。山奥で辺りも暗くて不安になる。

到着したのは17時前。完全に山奥で外界から遮断されている。

バスを降りて、入り口をくぐりしばらく歩き、受付のある食堂に通される。

ここで貴重品(携帯、財布、鍵等)預けて、瞑想のルールが書かれた誓約書を渡される。

瞑想期間中のルール
  • 生き物を殺さない
  • 盗みをしない
  • 性行為を行わない
  • 嘘をつかない
  • 酒や麻薬を使用しない
  • 人と目を合わせない
  • 会話、読み書きしない

誓約書を読んでから、瞑想に参加する場合はサインする。

サインした時点でルールが適応される事となる。

これを聖なる沈黙と呼ぶ。

聖なる沈黙は11日目の朝まで続く。

瞑想期間中のスケジュール

初日スケジュール

PM18:00 夕食 ビュッフェ形式 玄米、スープ、サラダ、コーヒー、ジュース、お茶。
PM19:00 スタッフの紹介と注意事項について説明。
PM20:00 初日の瞑想。
PM21:30 就寝

2日目から10日目までのスケジュール

AM4:00      起床
AM4:30      各自瞑想
AM6:30      朝食休憩
AM8:00    グループ瞑想
AM9:00    各自瞑想
AM11:00  昼食休憩(希望者は指導者と面談)
PM13:00  各自瞑想
PM14:30  グループ瞑想
PM15:30  各自瞑想
PM17:00  ティータイム休憩
PM18:00  グループ瞑想
PM19:00    講和
PM20:15    グループ瞑想(希望者は指導者に質問)
PM21:30    就寝
宿泊施設について

男子宿泊棟は4〜5部屋。

施設内は男女分かれていて、瞑想ホール意外会うことはない。

女性部屋へ男子は入れないので分からないが、外観から見た建物の大きさと作りから一緒っぽい。

基本は相部屋で2段ベッドの配備された部屋、板張りの布団が置かれた部屋、バンガローの個室。

バンガローの個室は古い生徒と奉仕スタッフ。

自分の寝起きした部屋は8畳くらいの板張りの部屋に布団が敷き詰められ、自分のスペースは布団の上だけ、荷物は足元に置く。

貴重品は初日に預けてるので盗まれる物はなくて安心。

人間関係について

そもそも自分を観察することに集中するので、人間関係など存在しないはずだけど、狭い部屋で10日間の共同生活をしてたら難しい。

そして会話も読み書き目も合わせないのだから、嘘をつくことはできない瞑想者がここに存在している事となる。

しかし静寂になるとちょっとした動作だったり、仕草が際立つ。

いかなる状況でも瞑想に集中して平然を装うことが一番難しいのではないのだろうかと感じた。

自己を観察するヴィパサナ瞑想の前に集中力を高めるサマタ瞑想が重要っぽい。

宿泊部屋について

初日に宿泊する部屋に入ると向かいの布団はしばらく空いてたが、1時間ほどしてから背丈の180cm以上ありそうな20代半ばくらいの黒髪、短髪で腕とふくらはぎにタトゥーを入れて、切れ長の目に色白の痩せ細った青年が舌打ちしながら入ってきた。

部屋の空気が変わった。ちょっと洒落が通じなさそうな人だ。

そして左隣の布団はそれとは真逆でチャラチャラした30過ぎくらい、短髪で茶髪なぜか香水をつけている男性。香水がキツめでデパートの化粧品コーナーか空港の免税店にでもいるようだ。よく日焼けした肌を見ていると、ゴルフ焼けですか?と突っ込みたくなる。

そして最悪なことにイビキがやたらうるさい。

10日間、瞑想に集中する環境としては、なかなかハードルが高い。

3日過ぎただろうか、朝布団の上で瞑想していた。

向かいの神経質な青年の荷物を出し入れする動作の音や舌打ちが狭い部屋に響く。クセなのだろうか。本人はおそらく気づいてないのだろう。

相変わらず隣は香水の匂いがプンプンする。カバンや服に染み付いて取れないのだろう。

匂いが気になって私の頭の中もプンプンで集中できない。体勢を変えようとした瞬間、今までで聞いたこともない抑揚のある高い音のおならが2秒間くらい室内に響きわたった。

向かいの神経質な青年はしばらくして、”あ、、あかん、、、”と独り言を口にした後、反対の壁側を向いた。

その背中は小刻みに震えていた。

しばらく部屋の雰囲気が何とも言えない気まずい空気になった。

そして向かいの神経質な青年のどうしても許せない殺気が伝わってくる。

空気に耐えきれないものが一人、また一人と消え、結局6人になった。

参加者全員でグループ瞑想

瞑想ホールが宿泊棟の2階にある。

100畳くらいありそうな広いスペースにクッションが並ぶ。

ボランティアで瞑想の指導者役の老婆が中心の椅子に座って、ボランティアスタッフが脇に座り、対面にして男女別で古い生徒から順番に後ろに新しい生徒で並んで座る。

参加者は男女合わせて60人くらい。

録音された講話が天井に取り付けられたスピーカーから流れる。

よく見るとboseなのが少し笑える。

どこからかイビキも聞こえる。

隣人は完全に寝落ちして、頭が下にガクンとなった瞬間にフェ〜と奇妙な声をあげて起き上がったので、周囲は笑いを堪えるのに必死。

平然を装うことが一番難しい。

瞑想が終盤に差し掛かったある日、とんでもない光景を目にする。指導者の老婆が堂々と寝落ちしてイビキをかいている。

ある日瞑想が終わって部屋に戻ろうとしたら指導者に呼ばれる。

なんだろうと思ったら、瞑想中に寝てただろと指摘をされた。

一瞬戸惑いながら’はい’と答える。

確かに何度か寝落ちしてしまった。

以後気をつけるようにと言われる。

何だか腑に落ちない。

食事と休憩について

食堂は30畳くらいの広さだろうか、テーブルと椅子が並んでいて、20人くらいが定員で早く来た人から順番に済ましていく。

食事はすべてブッフェ形式で生き物を殺さないのでヴィーガン。

朝食はトースト、玄米、サラダ、ドリンク(コーヒー、お茶、豆乳、フルーツジュース)、昼食は玄米や炊き込みごはん、味噌汁やダルスープ、サラダ、ドリンクが振る舞われる。

ディナーはないが夕方にティータイムがあるので果物とドリンクが振る舞われる。

もちろん食事中も無言である。

静まりかえった食堂で皿に食べたいだけよそって黙々と食事する。

とは言え瞑想しかしない生活なので、それほど食欲も湧かない。

と思いきや一人例外がいた。

行きのバスで一緒だった新卒のラガーマンの青年だ。

180cmくらいの身長でがっしりした体型。

いつも皿と茶碗が山盛りで、何度もおかわりしていて、草食系の瞑想者の中でとにかく異質だった。

ブッフェとはいえ、ちょっと食べ過ぎではないかと思うが、彼の体型からすると普通なのかもしれない。

彼の後はおかずがなくなってしまうので、後から来た人は大変である。新しいおかずが来るのをしばらく待たなければならなくなる。

当たり前だが沈黙が解けた後、周囲から突っ込まれていた。

休憩中にする事はトイレ、シャワー、洗濯、歯磨き。

洗濯はトイレの洗面台の前に洗濯板とバケツが置いてある。

トイレの外に脱水機と物干し竿。

用がなくなると庭を散歩。

聞こえるのは鳥の囀りと風の音。

11日目と最終日について

11日目の朝、起床して各自瞑想。朝食休憩。ホールでのグループ瞑想。

ここまではスケジュール通り。

AM9:30頃、宿泊棟の前にあるベルが鳴らされる。

聖なる沈黙が終わりの合図。

ベルが鳴った瞬間からどよめく。

近くにいる人が感動を共有しようと喋りかけてくるので、愛想笑いしながら共感したふりしている自分の心は擦れてるのだろうか。

気疲れした。

向かいの布団の神経質な青年と目が合う。心の中で、頼むからこっち来るなよと思ったけど、文句ありげにこちらに話しかけてくるので、少し青年の話を聞いてみた。少し話を聞くどころか、一方的に喋ってくるのでしばらく愛想笑いしながら相槌する。

青年は看護士をしていたが、薬にハマって仕事も辞めてしまったと。最初はチック症なのかと思った動きや舌打ちは薬物依存の後遺症だろうか。テレビやYouTubeで見た事がある。

せっかく資格もあるんだから外国で看護師のボランティアでもしたらと冗談っぽく提案してみたら、青年の顔がハッとなってすぐに去っていった。

私は間違った事言ったのだろうか。。

再び2階のホールでグループ瞑想。

ランチの食堂は相変わらず瞑想後の感動で賑やかだ。なぜだか賑やかなフリしてるようにも見えてきた。

気の置ける会話に正直疲れた。離れた席が空いてたのを見つけて一人食事する。

翌朝、部屋の片付けをして荷造りをしてたら、向かいの神経質な青年は隣の布団のアウトドアブランドの高級そうなスーツケースを持った、長髪の学生と話している。会話は周りに聞こえるように大声で持ち合わせがないから、残ってしばらく奉仕をすると言っていた。

青年の方を見ると一瞬あった目が泳いでいて、すぐにそらされてしまった。

多分昨日の自分の提案がよっぽど嫌だったのだろうか。

片付けと荷造りが終わると食堂で預けた貴重品を受け取る。

そしてドネーションを払う。

クレジット支払い可能なのは驚いたというか笑えた。

自分の気持ちを支払うので金額は決まってないが、自分の同じ部屋の人だったり、帰り道で一緒だった人とドネーションの話になったけど1万円〜2万円くらいだった。

その後、今回の瞑想コースを受けた男女が外に集まり、用事がある人から優先にバス停までワゴン車で送迎される。

送迎を待つ間は奉仕作業で施設の掃除。

ずっと静かだった自分の右隣の布団にいた東北から来た同い年くらいの人がここぞとばかりにこちらに寄ってきてニヤニヤしながら、さっきからずっと女性の方ばっか見てたでしょと言われる。

周りもニヤニヤしていた。

いきなりで一瞬戸惑いながら笑うしかなかった。

確かに女性に弱いのは図星だけど、そんな俺見てたかな、、、

しばらく考えながら、、、あ!?、、もしかして、オナラの仕返しか、、、

奉仕作業は落ち葉の清掃で歳の近い色白の草食男子と施設の裏庭に行く事になった。痩せ型で脱力的、自分の想像していた瞑想に来る人の典型のように思えた。

落ち葉を集めしてたら古い生徒さんに木の剪定バサミを渡される。

手本を見せられる。ハサミの扱いに慣れているのか、凹凸だった木のシルエットが一瞬で綺麗に丸くなる。瞑想ホールでは、自分の前に座っていて、ずっと正座を崩さず瞑想していて、正直凄いと思っていた。

自分は胡座で5分おきに足を組み変えるという、なんともお粗末な有り様だった。

チャーシュー麺を食べる背徳感

10時過ぎ、ワゴンに乗ってバス停へ向かう。行きは暗くて、よく分からなかった道も、昼間に通ると、よい景色。桧山バス停に到着して、送ってくれたボランティアの方にお礼を言う。

バス停から電車を乗り継いで京都駅まで瞑想帰りの人で賑わっている。行きのバスで一緒だったラガーマンの青年と帰り道の京都駅まで席が隣になった。

駅のレストラン街を歩いてたら巨大な肉の塊が載せられたラーメンのポスターが目に映る。ポスターの前で青年の足が止まり、こちらに顔を向けてきた、その時の目は本気だった。

むむ、、そんな目で見られたら無言で相槌するより仕方ない。

向かった先は昼時の忙しいラーメン屋にできた列の最後尾。なぜだかよく分からない後ろめたい気持ちをお互い正当化しあう。ふと店内を見渡すと一番奥の外から見えない席に同じ瞑想コースに参加していた長髪で髭を生やした古い生徒さんが一人ラーメンを啜っていた。

あの神聖で穢れなき瞑想修行後、最初に口にした背脂たっぷりの肉の塊が載ったラーメン。俗世界にリセットされた瞬間でもあった。

一人高速バスに乗った帰り道

京都駅から一人高速バスの帰り道、バスの席で物思いにふけりながら、この瞑想を知った10年前の旅で感じたような新しい世界を知って心ときめいていた自分はもういなかった。そしてこの10年の間、新しい経験をしないまま、歳だけとって中身のない人間になってしまった事に気づいた。

それに気づけただけでも自分にとってこの瞑想に参加した意味はあったのかも知れない。

バスを降りて飲食店が並ぶ繁華街の路地裏で背負っていたバックパックを足元に置いて、瞑想前にバッグパックの奥底にしまった、吸いかけのタバコとライターを取り出して、タバコに火をつける。

ヤニクラが凄い。

※2016年頃の体験談です